くるみの庭 ~ちょっとここらで深呼吸~

パニック障害を経験した筆者が、病気や人生のこと、心身の健康のために取り組んでいることを発信。

【群ようこの世界】『かもめ食堂』作者のエッセイを読む

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誰かの暮らしをのぞき見するのは面白い

はじめに断っておくが、ヘンタイやのぞき魔ではない。と思う。
例えば動画や本などで、海外のとある村の伝統的な暮らしだとか、お金をほぼ使わない小さな暮らしだとか、自然のそばで半自給自足の暮らしだとか、そんなものを目にするとつい見てしまう。
最近の大河や朝ドラなどの歴史モノでは、江戸時代や明治時代の庶民の暮らしに魅せられている。
彼らはどんなものを食べ、何に楽しみを見出し、どのような日々を送っているのか。あぁこんな生活もいいなとか、これは大変そうだなとか、そこで暮らすのを想像するのも面白い。
べつに派手さや豪華さは必要ない。惹かれるのはどちらかというとシンプルで手の届く暮らし。
何気ない日常の中に小さな幸せや楽しみを見つけ、今あるものに感謝して、心穏やかに暮らす。そう丁寧に暮らせたらどんなにいいかと思う。(現実はほど遠い…)

そんな理想の暮らしを体現した、私のバイブル的な作品がある。『かもめ食堂』と『パンとスープとネコ日和』だ。作中のおいしそうなごはんも最大の魅力。食いしん坊の私にとって、丁寧な暮らしとおいしいごはんは強く結びついている。
こんな素敵な両作品の作者である群ようこさんはどんな暮らしをしているのだろう。きっと作品の世界観にも通じる暮らし上手な方なんだろうな、と今回初めて群さんのエッセイを手に取った。

 

群ようこの脳内をのぞき見!等身大のエッセイ

驚くほど多くのエッセイを出されている群さん。食にまつわるものを中心に選んでみた。

①たべる生活
意外にも料理は苦手で、あまり食に頓着しないという群さん。
でもこだわらないと言いつつ、調味料に砂糖は使わない、毎朝 5分づき米や麦、もちあわなどを一緒に土鍋で炊く、夜は御飯(米)は食べない、などなかなかのこだわりよう。
外食や中食はほぼせず、手をかけずに自分のためだけのごはんをせっせと作っている。例えば、朝は御飯と具だくさんの味噌汁、昼は御飯と鶏肉と野菜の煮物、夜は旬の魚と野菜の炒め物など。
群さんいわく料理ともいえないものばかりだそうだが、自炊を続ける根底には食をおろそかにしてはいけないという考えがあるようだ。
食という生きるのにいちばん大切なことは、たまには人任せにするのもいいけれど、基本は自分がちゃんと握っていないと、あるとき、どかんとしっぺ返しが来るような気がしている
過去に食生活の乱れで体調を崩してからは、甘いものは週一、体を冷やすものは食べない、水分を摂り過ぎない等の生活を心がけているのだとか。なんと果物やアイスを食べる時は天気予報で翌日以降の気温をチェックしてから、というちょっと神経質な一面も。

私が描く理想的なスタイルは、毎食、きちんと季節やそれぞれの食材の色合いにふさわしい食器にきれいに盛りつけることなのだが、実際はそれを毎日やるのは難しい
つまり『かもめ食堂』や『パンとスープとネコ日和』の食卓は、群さんにとっても目指す理想の形だったんだなと勝手に親近感を覚えた。

 

②今日は、これをしました
無理をせず、無駄をせず。コロナ禍でもマイペースに暮らす群さんの日常。
アベノマスク(懐かしい!)をほどき、家にある木綿のはぎれと組み合わせてマスクを手作りしてみたり、子供時代はあんなにダサいと思っていた毛糸のパンツを編んだり、ぬか漬けや番茶と昔の食事に逆戻りしたり、新しいパソコンがネットに繋がらずヤキモキしたり、引っ越し前にできなかった不用品処分に追われたり…。実はバラエティ番組好きという意外な一面も。

印象的なのは、愛猫しいちゃんの旅立ちを見送ったお話。
小食で偏食だったしいちゃんのために毎日様々なフードを用意したり、しいちゃんが嫌がるからと夜間の外出はやめたり、まさにネコ中心の生活を20年以上されてきた。
そう、なんとしいちゃんは22歳の大往生! それもあってか群さん自身は案外さっぱりしているのに、なぜか私が嗚咽するというよくわからない展開に。
同じペットを持つ者として、勝手に自分と重ねてしまうようだ。
心を落ち着かせようと、我が家のペット(ヒョウモントカゲモドキ)のケージをのぞいたら、ばっちり目が合った! もしや何か感じることでもあったのかと嬉しくなって話しかける私。
が、途中で何か変だと思い、試しにすーっと横に移動してみた。本来ならば一緒に横に動くはずの彼の視線は微動だにせず、さっきまで私がいた辺りを真っ直ぐ見つめ続けている。
……。どうやら彼の視線の先にたまたま私が入っただけだったようだ。
何じゃコイツと思ったが、おかげで涙は引っ込んだ。(何の話だ)

 

③ちゃぶ台ぐるぐる
食にまつわる思い出や46年間のひとり暮らしと自炊のエピソードがずらり。
駄菓子を買ってもらえなかった子供時代、風邪を引いた時に母が作ってくれた小田巻蒸し、部活帰りに町中華で汁まで飲み干したラーメン、68歳で始めた茶道での抹茶売切れ騒動…などなど。
「ちゃんとしたものを食べていれば、死んだときも顔色がいい」という群さんの母方に代々伝わる家訓や、栄養士と調理師の免許を持つ料理好きなお母さんの影響で、群さんの子供時代の食生活はとても豊か。のちに この食体験が数々の作品の屋台骨になったのだなと勝手に推察して納得。

料理嫌いだという群さんはあまたの挑戦と失敗を経て、最終的に「自分の腕前以上の凝った料理を、無理して作るのはやめる」という結論に至る。調味料も塩、味噌、醤油などの基本的なもののみ。
群さんにとって料理とは、さぁやるぞと意気込んでやるものではなく、起きて食べて動いて寝るといった毎日の生活の中に自然に組み込まれているものなのだ。

 

④ゆるい生活
たびたび他のエッセイでも触れられていた体調不良についてのエッセイ。
50代半ばで突然めまいに襲われ、友人の紹介で漢方薬局を訪れた群さん。
なんと体調不良の原因は、甘い物の食べ過ぎなどで体が冷え、代謝も落ちて余分な水分が排出されずに体内に溜まっていることだった!漢方の先生によれば、胃が冷えると余分な水分が上に上がりやすく、あまりにその人にふさわしくない分量の水が溜まったために、それが頭の方まで上がってめまいを起こしたとか。水毒という言葉は知っていたが、こんな恐ろしい症状が出るのかと驚いた。
それ以降、毎日漢方の煎じ薬を飲み、週に1度 薬局での地獄のリンパマッサージを受けながら、一気に6個も食べていた(!?)という大福などの甘いものを断ち、湯船につかり、野菜中心だった献立に鶏肉をプラス。とにかく体を温め、余分な水分を抜く生活が始まったという。

やがて体質が改善されてめまいも良くなってきてからは、甘いものは週一に解禁。代謝が上がったおかげで思わぬダイエット効果もあったとか。
ただ、体質の変化につれて体が敏感になり、以前はなんともなかったのに、ちょっと果物や甘いものを食べ過ぎると、胃が冷えたサインでこめかみが痛くなるそう。なるほど、これが『たべる生活』で言及していた、果物やアイスを食べる時の天気予報チェックに繋がっていくのだな。
個人的には気にし過ぎずほどほどが一番かなと思いつつ、群さんの悪戦苦闘の日々が面白くてタメになり、自分も甘いものや冷たいものには気をつけねばと気を引き締めた。

 

 

暮らしを紡いでゆくということ

群さんのエッセイを読み、改めて食の大切さを学び、考えさせられるとともに、群さんもまたたくさんの挫折や失敗をしていて、あぁ同じ人間なんだなとホッとした。
丁寧に暮らすとはなんとなくの雰囲気や見てくれではなく、きちんと自分の体と心に向き合うこと。例えば、十分な休息や体のことを考えた食事など、自分を大切にすることなのだと改めて教わった。
きっと暮らしの根のようなものがしっかりしているから、コロナ禍でも愛猫を見送っても群さんの毎日は大きく揺さぶられて不安定になることがない。
一見地味にも思える日常の中にやりがいと楽しみを見出し、機嫌よく過ごす。小説みたいに全て穏やかにうまくやれるわけではないけれど。
やっぱり群さんはとても暮らし上手な方だった。